混迷の時代を切り拓くために ~経営と美について~
このコラムを書いている現在(2020年4月下旬),新型コロナウィルスが多くの国を席巻し,公衆衛生上の危機を引き起こしております。この強力な感染力を持つ新種の感染症の流行は,都市生活を前提とした現代の産業構造や,一貫して進展してきたグローバリゼーションの妥当性など,今までの社会が当然と思っていた自明性を揺らがせる大きな契機になるかもしれません。
このような先の見えない社会状況において,特に、かつてない恐慌の足音が聞こえてくる中で、舵取りをする立場の人は、難しい判断を迫られることになります。このような中で、どのような指針でもって判断をしていくべきなのでしょうか。
近年、グローバル企業の幹部候補などのいわゆるビジネスエリートの間で、美術系大学院の人気が高まっているそうです。従前であれば、そのようなエグゼクティブトレーニングとしては、MBA(経営学修士)と相場が決まっていました。しかし、それでは足りないという認識が広まってきたのです。
それは、どのような理由からでしょう。
経営学は学問です。経営する上での意思決定をするために役に立つためのものです。その学問であるという性質上、実証的で論理的な説明をもとに組み立てられます。しかし、実際の経営においての正解は、結果、すなわち企業として成功したかどうかをもって判定されます。論理的や理性的な考え方だけで、かかる正解に必ず至ることができるのであればいいのですが、現実にはそうはなっておりません。論理的に考える前提として、全ての要素が明らかであり、また、その要素の相互作用が明らかであればいいのですが、社会ははるかに複雑で流動的です。そのような見通しが難しい中で、直感や感性によって判断をするということが見直されてきているのです。
そして,複雑性によって将来の見通しが難しいという状況は,経営においては典型的ですが,勤労者などであっても同じであるといえます。
近年の心理学によって、人間は情報を処理する際に、迅速で無意識的・直感的な処理と、意識的で時間が掛かるが論理的に処理をする二つのシステムを使い分けているということが判明してきました。直感的な処理については、おおむね正しい結論が得られるのですが、感情に左右されたり、バイアスにより誤った判断をすることがあります。感情に左右されすぎることが、必ずしも良い結果を生み出さないということも当然です。しかし、全く感情や直感を入れることなく判断することも、また危険であるということです。
最近では,インターネット上やアプリなどで作品を参照できるサービスも多く用意されております(例えば,Google Arts & Cluture )。前例のない状況であるときこそ、絵画や彫刻を鑑賞しつつ,自身の内面を深く見つめる機会を作ってみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
山口周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるか」
阿部修二「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」